ピープル店主の読書日記

林哲夫(編)『喫茶店文学傑作選 苦く、甘く、暑く』

新刊書店でみかけて目を疑ったが、手に取ってみると、まごう事なき続編だった。「正直なところ、第二集をという話があったとき、数を揃えるのはそう難しくないにしても、第一集に匹敵する質的なレベルを維持できるかどうか確信がなかった」と編者自身が書く通り、一集とは異なる読み口のアンソロジーになっている。全体に軽めで、繋ぎの妙味─前回驚かされたDJのようなリズミカルな編集の味─は弱まった気がする。

「内容的には喫茶店文学としても完璧と言ってもいい出来栄えである」とする永井荷風「おもかげ」が収録されたのは大きい。季節の移ろい、時間の流れをうつくしく描写する20ページの短篇を読み終わってため息が出た。五木寛之、川崎彰彦のコンビが並べられたのも嬉しいところ。

個人的に思い入れのある森山大道「逗子」が再読できたのも収穫。筒井康隆「二人でお茶を」、田辺聖子「おちょくり喫茶」が繋がれたあたり、読みものとしてはいちばん面白かった。